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地中における鉛、油分、ベンゼン、トルエン、及びキシレンの存在を瑕疵と認めなかった事例

居住その他の土地の通常の利用をすることを目的として締結される売買契約の目的物である土地の土壌に人の生命、身体、健康を損なう危険のある有害物質が、これらの危険がないと認められる限度を超えて含まれていることは土地の瑕疵にあたり、売主は損害賠償責任等の責任を負うことになります(東京高判平成20年9月25日判タ1291号43頁)。

そして、土壌に含まれる物質が、人の生命・健康を損なう危険を伴うかどうかについては、物質毎に土壌汚染対策法などの法令により有害物質の種類と基準値が定められておりますので、法令の定めが重要な基準となります。

これらの各基準は、一定の科学的根拠から、土壌汚染による人の健康に係る被害の防止に関する措置を実施する上で目安になるものとして規定されているものと考えられますので、裁判実務上は、同各基準を超える含有量ないし溶出量が検出された場合には、その程度の如何を問わず、当該土地の汚染土により人が直接被害を受け、また、同土地を雨水等が透過した際に、地下水を汚染する蓋然性が認められると判断されております(東京地判平成18年9月5日判タ1248号230頁等)。

以下の事例においては、以上の考え方を前提に、鉛、トルエン、及びキシレンの瑕疵該当性が否定されたものと考えられます。もっとも、ベンゼンについては、土壌溶出量基準の11倍の濃度が検出されたにもかかわらず、検出範囲がわずかであること等から瑕疵該当性が否定されており、まれな事案であるといえます。

また、買主が売主に対して瑕疵担保責任に基づき損害賠償請求をするには、瑕疵が「隠れた瑕疵」でなければなりません。「隠れた」とは、以下の二つを意味します。

  • ① 瑕疵が表見しておらず、一般人の見地から容易に発見できないこと(大判昭和5年4月16日民集9巻376頁)
  • ② 買主が当該瑕疵につき善意・無過失である、すなわち、買主が当該瑕疵を知らず、かつ、知り得ないこと(大判大正13年6月23日民集3巻339頁)

以下の事案では、油分による土壌汚染を瑕疵に該当すると判断したものの、買主であるAが油分による土壌汚染の存在について記載された報告書の交付を受けていたこと等から上記の要件をみたさないものと判断され、売主であるBの瑕疵担保責任の存在が否定されました。

裁判例 東京地判平成22年 3月26日ウエストロー・ジャパン
事案の概要 Aは、Bから土地を6億1000万円で購入し、同土地をCに転売したところ、Cによる土壌汚染調査の結果、同土地の土壌に有害物質(鉛、ベンゼン、トルエン、及びキシレン)及び油分の存在が判明し、AはCに対して、Aが汚染土壌の除去費用3210万円を負担する内容の覚書を締結した。そこで、Aは、Bに対し、同金額の損害賠償を求めた。
判決の概要 鉛については、いずれも土壌溶出量基準及び土壌含有量基準を大きく下回っていること等から瑕疵にあたらないと判断された。
ベンゼンについては、地下3mの地点から土壌溶出量基準の11倍の濃度が検出されたが、本件土地のごく一部の地区に限られていたこと等から瑕疵にあたらないと判断された。
トルエン及びキシレンについては、人の健康の保護に関連する物質として要監視項目とされているものの、人の健康に影響を及ぼす量やその影響の具体的な内容は未だ明確でないこと等から瑕疵にあたらないと判断された。
油分については、土砂を土砂処分場に搬入して処分しようとしたところ土砂に油臭があることを理由に受入れを拒否され、産業廃棄物として処理するよう指示されたこと、土砂の一部をバケツに入れて水を注いだところ、油膜を生じたこと、各地点において160mg/kgないし2600mg/kgの濃度のTPHが検出されたこと等から、瑕疵にあたると判断された。しかし、Aは、本件売買契約の締結に際し、本件土地の一部の地表から68mg/kgないし1900mg/kgの濃度のTPHが検出されていることを知っていたこと等から、油分の存在については隠れたものであるとはいえないと判断した。
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